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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)836号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤安哉の上告理由第一点について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば、上告人は、本件貨物自動車を所有し、息子の瀬口博恵および被用者にこれを運転させて砂利・砂の販売業を営んでいたというのであるから、右自動車を自己のために運行の用に供していたものであることが明らかである。そして、近藤俊光は、上告人と姻族関係にあつて近所に居住し、従来も数回上告人および家人から右自動車を借り受けて運転したことがあること、右自動車の鍵は上告人の住居から自由に持ち出すことができ、車庫から自動車を進出させることも容易な状況にあつたこと、本件事故の前日の午後、近藤は、妻の実家に行くなどのため上告人の家人に右自動車を借りる旨を告げ、右鍵を持ち出して右自動車を運転して進行し、途中で瀬口博恵を同乗させ、以後同人の運転で八女市および久留米市に赴き、その帰途近藤の運転中に本件事故を起こしたものであること、したがつて、近藤が右自動車を借り受けたのも一時使用のためであり、ただちに返還を予定していたものであることなど原判決認定の事実関係のもとにおいては、本件事故当時、近藤が上告人の承諾を得ないで私用のため本件自動車を運転していたからといつて、上告人が右自動車の運行について支配を失つていたものと解される事情は、認めるに足りないものというべきである。したがつて、上告人は、自己のため自動車を運行の用に供する者として本件事故による損害を賠償する責任を負うべきものであるとした原判決の判断は、正当であつて、論旨は採用することができない。

同第二点について。

本件事故発生について被上告人の過失を認めるに足りないとした原判決の認定・判断は、挙示の証拠に照らして肯認することができ、右認定・判断の過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を非難するものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本正雄 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

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